介護保険の認定は、“掛け合わせ”で変わります。
身体の不調だけでは難しくても、精神面の状態と組み合わせることで、必要な支援が通りやすくなるのです。
実は、この掛け合わせ技は介護保険だけの話ではありません。
身体障害者手帳や精神障害者保健福祉手帳などの障害認定でも、身体機能と精神面の両方を評価してもらう“掛け技”が可能です。生活の困りごとは、一つひとつ別々に言うより、全体像としてまとめて伝えることで、制度の対象や等級が変わるケースもあります。
この記事では、75歳で脳梗塞を発症した母が、医師の掛け合わせ技で要介護1を獲得し、生活がどう変わったのかをビフォーアフター形式で紹介。さらに、認定調査でやってしまった“元気アピールによる格下げ事件”、そして制度を最大限活用するためのリアルなコツも解説します。
「介護保険や障害認定を申請しても通らなかったらどうしよう…」と迷っている方や、もっとサービスを引き出したい方にこそ読んでほしい実体験記事です。

Before:介護保険を使う前の母の暮らし
母は75歳で脳梗塞を発症しました。
麻痺は軽かったものの、精神面の不安がぐっと強まり、もともとあった妄想性障害がパワーアップ。
「心臓が止まる」「呼吸できない」――実際には何もないのに、未来への不安が恐怖に変わり、そのたびに救急車を呼ぶ日々。私も母も心身ともに疲れきり、ついに精神科を受診することを決めました。
これが、介護のスタート地点へと私たちを導く第一歩でした。
それまでは、母も元気で、介護のことなんてまったく他人事。制度の仕組みも知らず、「介護なんていやよ」と言い張る母に、私は途方に暮れるばかり。
母はガーデニングが大好きで、庭はいつも満開の花。家事も完璧で、家中ピカピカ――これが我が家の“あたりまえ”でした。でも、脳梗塞を経た母が、この先ひとりで暮らせるのか。お風呂や買い物はできるのか。そんな不安が、私の胸にじわじわと広がっていきました。
※もし親が突然倒れたら…落ち着いて動けるように「親が倒れたときパニックにならないための7つの行動」もぜひ読んでみてください。
転機:医師の“掛け合わせ技”
疲弊した母は、心を休めるために精神科に入院しました。
二か月後、退院する際には精神障害者保健福祉手帳も取得(後に返還)。
医療費やサービス利用の面で、この手帳は本当に助けになりました。
そしてここで登場したのが、医師の“掛け合わせ技”です。
身体の麻痺と精神的な不安定さ――この両方を診断書にしっかりと書いてくれたおかげで、最初から要介護1の認定に。
母は「家に人が入ってくるのはイヤ」と全力拒否でしたが、ここはあえてスルー。介護はまず“やってみる”ことが大事です。やめるのはいつでもできますから。
だからこそ、この時期はとにかく一歩ずつ、できることを進めていきました。
母に四の五の言わせず、どんどん話を進めました。
…とはいえ、当時の私は介護保険の知識ゼロ。
そこで、初対面のケアマネージャーさんに、思いつく限りの不安や疑問を全部ぶつけてみました。すると――次々とサービスを説明してくれるではありませんか!
訪問介護、デイサービス、福祉用具のレンタル、住宅改修…。「そんなことまでできるの!?」の連続。介護保険って、こんなに至れり尽くせりなんだ…と驚いたことは、今でも忘れません。
お役立ちポイント
身体の不調+精神面の状態は、別々に伝えるより両方セットで医師に説明すると、必要な支援が通りやすいです。他にも“セット術”はいろいろ。医師・看護師・ソーシャルワーカーを巻き込んで可能性を引き出すには、受け身はNGです。
After:介護保険で暮らしがこう変わった
① 訪問系サービスで「人が来る安心感」
ホームヘルパーさんによる訪問介護、訪問入浴、訪問看護、訪問リハビリ…。自宅で必要なケアを受けられるのはもちろんですが、我が家の場合は母が独居なので、人が来てくれるという安心感が何よりも大きかったです。
② 通所系サービスで「約束」と「出あい」
最初は、食事を出してくれて、お風呂に入れてくれるデイサービスをお願いしていました。ところが、たった1か月で「もう行かない」と母が言い出します。
理由を聞くと、「ずっとテレビを見ていてつまらない」とのこと。よくよく話を聞くと、「行くならリハビリがいい」と言います。
主治医を含む医療関係者からは、「お母さんにはリハビリはしんどいから難しい」と言われていました。でも母の中には、「動けなくなるのは嫌だ」という強い思いがあったようです。
こうして、けっこうハードなリハビリデイサービスに切り替え。
麻痺の重い人を見ては「気の毒なのよ」と感じる母。
そして同時に、「自分もがんばらなきゃ」と思い、その気持ちが10年以上も通所を続ける原動力になっています。
「今日、行くところがある」という予定があるだけで、生活には張り合いが生まれます。そこには「約束」があり、そして新しい「出あい」もあります。
③ 福祉用具と住宅改修で安全アップ
だんだん歩くのが大変になってきた母のために、手すりをつけることになりました。一番段差が高いのは、門の手前の階段です。そこに手すりを設置しようとしたら、「まずレンタルしてみたら?」と教えてもらいました。手すりのレンタルなんてあるんですね!
いっとき、その手すりをレンタルし、必要な場所や、設置する方向(手の動きも含め)をテストし、その後、工事をしてもらいました。この流れはとてもありがたかったです。
困っていること、困りそうなことは、どんなに小さなことでも、ケアマネさんに話してみましょう。知らない制度だけでなく、奥の手とか、いろいろアドバイスくれますよ。聞くが一番の突破口です。

あるある…まさか母まで!?”
これは介護現場では“あるある”なんですが――
まさか、うちの母までやらかすとは思いませんでした。
年に一度の介護保険の認定調査。
そこで母はプライド全開アピール。
「自分で立てます」
「料理できます」
「掃除もできます」
庭は満開の花、家はピカピカ。
…これで「要介護1を維持してください」というほうが無理です。結果、見事に要支援2へ格下げ。
このときも救いになったのは、例の精神障害者保健福祉手帳。これがなければ再調査はしてもらえなかったでしょう。
ただ、母はなかなか「できない」とは言えないようでした。何度注意しても、この「元気アピール」は数年続くことになりました。
お役立ちポイント
認定調査では「できること」より困っていることを中心に話すのが現実的。
見栄とプライドは一時封印が吉。
介護度が下がって…母、ついに気づく
何年か経って、母はようやく気づきました。
「私、同じことを繰り返してる…」と。
歳も重ね、サービスがなければ生活が成り立たないと自分でも感じているのに、また格下げになってしまったのです。「どうしよう」と私に電話をかけてくるほどです。
ようやく、自分がどういう立ち位置にいるのかを理解できたようでした。それからは、母ひとりでも、なんなく審査を通過。元気アピールは控えめに、“困っていること”をちゃんと伝えられるようになりました。
※介護生活を少しでもラクにするために、「年老いた親との付き合い方|心がラクになる5つのコツと体験談」も参考になります。
まとめ:制度は“使い方”がすべて
介護保険は、制度を知っているかどうかで暮らしの安心度が大きく変わります。
そして、より良いサービスを受けるには、
- 医師の掛け合わせ技
- ケアマネとの連携
- 積極的な相談
この3つが欠かせません。
母の暮らしがラクになったのは、制度と人の力を総動員したからこそ。もし今、介護保険の利用を迷っているなら、まずは一歩踏み出してみることをおすすめします。
そして、もう一つ大事なこと
最後にどうしても伝えておきたいのは、「合わない人がいる」という現実です。
相性が悪いのに我慢するのは厳禁です。
訪問看護ステーションを変える
ケアマネさんを変える
訪問看護師さんを変える
デイサービスを変える
ヘルパーさんを変える
…これらはすべて「できること」です。文句ばかり言ってはいけない、と思いがちですが、不平不満を抱えたままより、しっかり「合わない理由」を伝えることが大切です。
人嫌いな母は、「この人がいやだ」「この人がいい」とわがまま放題。正直、人としてどうよと思う瞬間もありますが…最近では、家に来てくれる方もデイサービスの職員さんも「よくしてくれるのよ」とご機嫌。本人が機嫌よければ、介護関係の皆さんもきっとホッとします。
良いコミュニケーションができるまで、あきらめないことが何より大事です。


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